油を削る。
ここでは長年織機から床に垂れ続けた機械油が固まって、床の上に層をつくっている。埃や土や、黴や、様々なものを巻き込んで、焦げ茶色のそれは独特の匂いがする。夏には熱で軟らかくなり、直射日光が当たれば液状に融けてさらに匂いを放つ。靴裏についた油は工場の中を移動する。この油の匂いに、歴史を感じることもある。そしてこの油の層が地層のように過去の物を取り込んで残していることもある。糸屑や鉄粉、ちょっとした金物、紋紙の一部など、織物をしていた頃の痕跡。それらに文字通り触れて読み解きながら、油を削っていく。 表面の埃と箒で削れる部分を掃き出し、その後現れる固まった油の部分は削ってみる。カッターの刃を付けたスクレイパーで、金属のブラシで。床に座り込み、リムーバーで融かしてみる。工具もつかって染み込んだ部分のコンクリも削ってみる。洗剤もいくつか試す。試行錯誤の後、結局生分解性の洗剤と高圧洗浄をかけることに行き着く。表面を剥ぐように洗っていく。
油が融け、水によって洗い流され、工場内の匂いが変わっていく。
空気が洗われているのだ。
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