「一緒に1 台、こわしてほしい」。
この場でふたたび織機が鳴ってから約半年が経ち、工場主は織機を処分する決意をする。織機は鉄や鋳物で出来ており、紋様を織るため上に載せられたジャガード機を合わせると1 組およそ1トンの重量がある。2007 年の春、織りかけのまま織機にかかっていた布と糸など架物を外し始める。織機本体を組みあげ留めているボルトやナットをスパナやドライバ、ハンマーを使ってひとつずつ外していく。スパナを持った手に力を入れる。体重をかけ、こくり、とネジが緩む。長年注がれた機械油が削れた鉄粉や埃とともに固まり、外れないものもままある。仕方ない、叩き割る。背中をばねのようにして、大ハンマーを振り下ろす。ネジがうまくまわって楔もパズルをとくよう に外せた時の高揚。次第に構造が解けていく。
固まった油で焦げ茶色になった表層を持つ塊が不意に内側をあらわにすると、生の金属が静かに輝く。それが何かの褒美でもあるかのようだ。1 台を崩し終えると鈍く黒光りする鉄と鋳物の山が出来、沢山のナットがキラキラとあたりに散らばる。そのまま、向かいの織機、またひとつ奥へ、隣の棟へ、手をかけていく。
工場にあった10 台すべての織機が無くなった時、ひと夏が過ぎていた。視線の上まで物で埋まっていた工場の、天窓からの光がようやく床に導かれる。
風が抜けていく。