生きる場のために、過去= 現在= 未来を繋ぐ
行為について
出会いの後、生きる為の場であったこの工場をもう一度目覚めさせたい、どうにかしたいがどうすれば良いかと悩む山﨑氏や、「場」自体からの問いかけに応えるようにこの場に関わり始めた。工場に通い、物に溢れていた工場内外の片付け、織機や機械の分解、傾いていた建物の分解をし、床の油を削り、洗い、磨き、屋根の穴を探り、直し、足りない基礎、柱、壁をつくり、既存の床をはつり、砕石を叩き込んで新しい土間コンを打ち……その場所で文字通り動きまわり、屋根の上から床下の土の中まで隅々に手を入れてきた。
桐生に行くことができるのは主に週末などの休みに限られるため行為は時間を縫うように、断続的に続けられることになる。常に現在進行形であるとはいえ、それは途中だったり「未だ」という状態なのではなく、都度、終いをつけて完了しているという状態を意識してその場を後にし、時間を置く。その間、場が変化するのをゆっくり待ちながら次の行為を考える。そういった時間の経過の仕方も含め、この行為は、行き場を失った物たちを整理し、建物を修繕しながら、風と光をとりこみ、人の手が離れかけた状態からあらためて、生きられる日常の中にその場所を送りかえすような行為だ。
一見すればこれは、使われなくなった古い工場を工場主を含む自分たちの手で修繕するセルフリノベーションのプロジェクトと見えるだろう。けれども私たちは建物をリノベーションしようとしてきたのではなく、この場所がふたたび息をするために、いま必要な行為を見出し、日常的な営みの延長としての行為を重ねてきた。場所そのものが生きるために建物の修繕が必要だったが、それはたとえば、必要と感じて絵を描いたり、写真を撮ったり、歌ったりする行為と同等と言っていいかもしれない。心身の限界を試しながらのそれらの行為のさなかで、あらわになる景色は予想の範囲を超え、私たちはそれを意識し楽しみながら、場所を改変していく。

この場所の未来を考えた時に、「古いものを残す」でも「新しい事業をする」でもなく、まず人がこの場所を生きること。外から借り物のソフトを導入するということではなく、内から変えていくようなこと。たとえば早急に「雰囲気のあるカフェ」を夢見るのではなくて、それまでずっと抱えながら目を向けるのを避けていた問題にひとつずつ手を入れていき、その道のりで身体が経験すること、掘り返し遡る記憶、ひるがえって繋がる現在、それらを経た当事者としての〈私〉が何を思い、何をするのか。10 年後結局カフェにしているかもしれない、けれどもそこに流れるだろう雰囲気は借り物でなくその場所で醸されるものになってほしい。もし、その先にあるものが結局、建物自体は壊すことであったとしても、この場 / 地にとって、それが過去から現在、未来へ地続きで身体的に繋がる行為であるならば、場の精神は継がれていく。現在こうして少しずつ建物に手を入れ、この場を動かしていること、すべては未来に繋がる行為となる。建物に手を入れながら、建物の存在にこだわっているのではない。見つめているのはそれが建っている地の土、吹き抜ける風、浴びる光、その内外を行き来する人々…それらを擁するこの「場 /地」なのだ。
主軸に置いているのは、この場所に気持ちのよい空気を求めること、場所にとって必要なことを、言語の直前、動きのなかで考えること、予期しない未来を呼ぶことである。片付けや修繕をする中で一時見えてくることを、この場に関わる人々、そしてここに生息し存在する他の者 /物たちと共有しながら進む。その中で私たちの身体や思考の仕方は変化して、また状況は変動していく。

中断の期間のうちにこの場所に溜まってしまった澱のようなものを取り出して場を耕すように動き、そこから主体としての営みがどんなささやかなものだとしても生まれるような土壌をつくる。かつては人が生業を営み日常を生きたその場所が、過去として切り離されないよう〈生きる場〉へと向かうこと。私たちが行なっていることは、そのようなことである。その後に形として何が残り、何が無くなり、空気として何が残り、何が無くなり、何が生まれるのか。
「物」を解き、建物を解き、床下をあばき、空をひらく。私たちはこの場所で、あらゆるものを粛々と解してほどきながら、何もないように見えるこの場自体をつくっている。これは、「場が動きつくられていく」ことについての、素朴で、壮大な出来事である。

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行為のさなかにおいて、言葉はなかなか「まさにいま」に追いつかない。思考や想いは行為する腕や掌の中に確かにあるが、言葉という姿に形作られる前に行為に乗せてやりとりされ、電気信号的な速さで変化してしまう。
それでも、この「普通の」小さな物語の普遍的な可能性を見つめるため、行為の身体的な描写、場の空気感、一瞬目に飛び込んでくるものを追ういわゆる主観的な見え方をここに言葉で繋ぎとめ、yamajiorimono*works の行為の色合いを示していきたい。
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